KORG社は、楽器業界で画期的な製品を次々と生み出してきました。もちろん、その中には失敗だってあります。
成功例のひとつに、オートチューナーがありますが、これもまさに「必要は発明の母」からなるもので、長内氏が楽器を簡単にチューニングできないものかとあみ出したのがこれです。
http://www.korg.co.jp/main/menu/m8_2.jpg
この中で、TM-40というチューナーとメトロノームを兼ね備えた製品があります。
ちょうどこの製品をKORG社が製品化する直前に、設計上の問題が生じ、その対策用部品を我が社が納入したのですが、それも発売ギリギリで発覚し、「海藤さん、ヘルプ!」の一声で急遽手配した部品でした。
設計変更が途中で間に合ったので、その対策用部品も要らなくなりましたが、その時の企画担当だったI部長は、訪問した際に会うと今でも丁寧に挨拶をされます。
その時のお礼にと、TM-40を1台譲って頂き、今でも愛用しております。
また、KORG社の製品をほんのごくわずかですが私もディストリビュートに協力させて頂いております。
I部長の部員であるN主任さんからも、新製品に使う部品を頼まれた際に、鶴見Rubber SoulのPauloさんからVOXのアンプを物色されているとの話を聞き、それをN主任に相談したところ安く譲って頂けるとのこと、N主任はたまたま鶴見の近くにお住まいだったので帰りがけにRubber Soulに同行して頂き、ギターアンプを調達してもらいました。
当時Rubber Soulに置いてあったVOXアンプのオールド品「Super Beatle」をぜひKORG社で展示させてほしいという話も上がりました。
それを機に、ミュージシャン仲間にKORG製品を紹介し買って頂きました。
シンセの鍵盤の修理の依頼を受け、懇意にして頂いている設計担当さんに依頼したところ、何と新品鍵盤を積み替えて頂いたこともありました。
そうそう、KORG製品で目ぼしいものがあれば私にご一報ください。別に中間マージンは取りませんので。
KORG社さんの社員の方々は、やはり根っからの音楽好きな方が多く、それぞれ楽器を触りバンドを組んでたりもします。見た目も、いかにも音楽業界といった風貌の方が多いです。
年に1度、「コルグライヴ」と称し社内のリクリェーションとしてコンサートも開催されております。
私もプライベートで懇意にして頂いている設計さん達とライヴを企画したり、また観に行ったりという交流もあります。
そんな仲なので、商談に行くと80%が「本業」に関する話で、実際の「裏稼業」の話は20%もしてません。
さて、肝心な会長のお話ですが、結局ほとんどお話をしたことがありませんでした。
2004年に現在の京王読売ランド前に新社屋を建立されてから、会長のお姿をよく拝見するようになりました。
というのも、その新社屋になってから1階のショールームの一角に喫煙コーナーがあり、会長はそこでいつも煙草を燻らせておりました。何しろ昨年末までほとんど毎日のようにご自分でベンツを運転し通勤されていたのですから、どれだけ気丈な方だったか。
遠くから見てもオーラを発している方でした。商談ロビーから喫煙コーナーが見えるので、そこでいつも会長は煙草をくわえながら誰それ構わず談笑されておりました。
時には、何かを思いついたように
「○○君はいるか?すぐここに来るように言ってくれ」
と、社員を呼びつけ説教だか訓示だかわからないが、長々と話をする場面がよくありました。
しかし、今年に入り肺がんが見つかり、余命1ヵ月くらいとのこと。
大好きな煙草が悪化させたかはわかりません。
そして、亡くなる寸前にご自身の最期を予期してか、社員への伝言として
「いい夢を見させてもらった。社員には感謝している」
という言葉を残したそうです。
そして大震災の翌週の3月15日、永眠されたそうです。
こんな言葉、なかなか出ないと思います。
自分の夢をかなえるのも、心強い社員のおかげだと。
ドンカマチックを作る頃から、きっと自分の夢を描いていたのでしょう。
その夢は志半ばだったのかも知れません。
でも、世界中のミュージシャンに愛される楽器を作り出していったことは間違いなく、これだけ立派な事業を成し遂げたところでも会長の功績たるや讃えない手はないでしょう。
葬儀には、世界中と日本中の著名なミュージシャンからの弔辞がたくさん届き、境内でいくつか置かれたディスプレイ画面で流しておりました。
ハービー・ハンコック、キース・エマーソン、ジョー・サトリアーニ…
国内では、ミッキー吉野、橋本一子、その中に難波弘之さんのお名前も見かけました。
難波さんは、Rubber SoulでPauloさんを通じお知り合いになりました。
難波さんのお父様が、日本で初めてハモンドオルガンを弾いた方で、その後輩が会長とKORG社を創業した長内端さんだったそうです。
難波さんもKORG社製品のヘビーユーザーで、所有されている製品は全て完動状態でメンテされているようです。
葬儀当日も参列され、そのお姿もディスプレイで写されたのでぜひご挨拶を…と思ったのですが、あまりにたくさんの弔問客だったので、押し流されるようにそのまま境内を出てしまいました。
KORG〜長内端氏〜難波弘之さん〜Paulo鈴木。さん〜Harri海藤〜裏稼業〜KORG…
あら、不思議な縁だこと!
天国でいつでも音楽を愛する者たちを温かく見守り、気付いた時にはいつでも説教を食らわしてやってください。
プレイする者、その楽器を作る者、演奏する場所を設営する者、それを聴く者、全ての音楽バカに。
お疲れ様でした。天国ではまた創業当時の「KOコンビ」復活ですね。
その長内さんと、またとんでもないことを考え、思いついた時にこっそり教えてくださいね。

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